えほんのはなし19「白い季節、カラフルな日々」

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今回はハッとする絵本が2冊。

ねこひさんの言葉に導かれて絵本の世界へ。

文 / ねこひ

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『ミッフィーとマティスさん』菊地敦己/構成、国井美果/文、美術出版社、2013年

よくぞこの本を作ってくれた、と企画者にお礼を言いたい。一ページごとにマティスとブルーナの絵が繰り返すが、違和感がない。ふたりの絵の特徴をよりよく捉えられるようになるだろう。

若きブルーナさんは画家になる夢をあきらめ、父の出版仕事を継ぐことになった頃に南フランスのロザリオ礼拝堂を訪ねて、マティスの作品に衝撃を受ける。「単純な輪郭と色の面で描く」こと「遠近感を切り捨てた平面」を描くことは、そのままブルーナさんの基本となった。それを研ぎ澄ましていくことを生涯続けるふたりの作品には共通点が多い。

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長男が4歳の頃だったか、この本を一緒に見た後、面白い抽象画を幾つも描き始めた。柔らかい心は何でも吸収し、吐き出すんだなぁと面白く思った。

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*息子の絵

美しいものに触れることがどのくらい大切かを目の当たりにした一件だった。

一面白く染められた雪景色の中では、色は今まで以上に価値を持つ。マティスとブルーナ、確かな色が形を持って、どのページもパレードのよう。文字を読めない子にも、大人にも、言葉を超えたものを伝えてくれるに違いない。色と形の楽しさを、年齢を問わず楽しめる本。

 

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『わたしのおいわいのとき』バード・ベイラー/文、ピーター・パーナル/絵、田嶋さき子/訳、2002年

雪が降るとしんと静かになるこの場所。私も聞かれたことがある。「こんな場所に住んでさみしくないの」って。

この絵本に出てくる女の子は砂漠の真ん中に住んでいて、広大な自然と向き合うのが日常。「さみしいですって?」女の子は驚いて笑ってしまう。

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自然ははっとするほど面白いものを見せてくれる。こちらが注意深くさえあれば。女の子がお祝いするのはこんなときだ。「心臓がドクドクし、山のてっぺんに立ったようなかんじになって、あたらしい空気をすったときみたいに 大きく息をのんだとき」

彼女はノートに書き留めて、1年に百八回もお祝いするほどすばらしい瞬間に出会う。 だから、さみしいって何のこと?と笑ってしまう。火の玉のような流れ星や、おうむのようなみどり色の雲、3重の虹など、誰にも見られない特別な体験をしているという実感が彼女に誇りと喜びをを与えているのだ。

私が一番好きなのは、彼女がコヨーテのあとを「あんなふうにあるけたらなぁ」と思いながらつけていって、振り返ったコヨーテが「わたしのことを、でこぼこ道をあるくただの生きものだと思ったみたい。(もちろん、そのとおりよ。)」と思うところ。人間というだけで、生きものの中で別格なんてなかなか思えない私は、とっても共感した。東京にいた時、裏道でそっと裸足になって歩いた時のことを思い出した。猫の歩き方に見とれて、後をつけたこともある。

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人間が少ない場所には他の生きものがたくさんいて、空が広くて、星はきれいで、夜は濃い。周りが静かになったときに、自分の心とさしで向き合うことになるので、それが恐怖という人もいるかもしれない。でも、外に目を向けていると、お祝いすべき瞬間があふれている。

一月一日は「ただの冬の日」で、あたらしい年の始まりのお祝いは春にするという彼女。 季節をじっと肌で感じれば、「今日がその日」とわかるはず。自分で感じることほど確かなことはないから。

あなたの始まりの日はいつだろう?精神世界を取り込んだような味わい深い絵に心が溶け出すように、しずかな部屋で読みたい一冊。

文/ねこひ 

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ねこひ 三月の羊内にある世界一小さな絵本屋

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