12月。雪の降り積もる北海道より
ねこひさんのえほんのはなしが届きました。
1日を積み重ねて365日。
静かに1年を振り返る時間にぴったりの絵本です。
文 / ねこひ
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『パンやのくまさん』
フィービとセルビ・ウォージントン作絵、まさきるりこ訳、福音館書店、1987年
シリーズ全5冊
夫が持っていた『パンやのくまさん』は定評のある絵本だけど、子どもたちと一緒に読めば読むほどその魅力がしみてくる名作です。
「ほぼ本人だよね」とうちでは笑いながら読むほどにリアルなパン屋さんの仕事ぶりに迫った一冊。
日本の絵本と違うのは、述べるべき事実だけを切取り、正確に無駄なく表現しているところ。
そこに変な感情は入りません。
日本の絵本でパン屋さんを出す時はメルヘンチックなものが多いですね。
パン屋さんの位置づけが「憧れ(おやつ)」である日本と、「現実(主食)」で身近なイギリスの差もあるでしょう。
たまにweb上でこの本の感想を見かけると、大人が読むとプライベートがなく奴隷のように働いているくまさんに切なさを感じる、とありますが、仕事がある日のパン屋の生活は、ほぼこんな感じだと思います。
子どもたちがこの絵本を大好きなのは、リアルだからではないでしょうか。
リアルで、それでいて余計なものはきちんと省きつつ、お客さんからのファンレターや食事をどんなタイミングでとるかなど、外せないところはしっかり描いています。丁寧な仕事ぶりはくまさんのそれだけでなく、作家の姿勢にも表れていて、
いつまで読んでいても気持ちがよい作品です。
枕元に釣りの本が置いてあるところまでお父さんそっくりだね、と笑いながら本を閉じる我が家でした。
シリーズは『せきたんやのくまさん』『ゆうびんやのくまさん』『うえきやのくまさん』『ぼくじょうのくまさん』とあり、後者2冊は絵が少し変わって甘めになるのですが(作絵はフィービとジョーン・ウォージントンに代わります)、そのことでより、先の3冊がどれ程背筋の伸びた絵かを際立たせます。
出て来るのはテディベアだし、色使いも優しいのですが、何かとても緻密さを感じます。
ところで『せきたんやのくまさん』のくまさんは、まだベビーベッドに入っているような小さなくまさんなのに一人で仕事をこなし、最後のページには直接は出てこないお父さんとお母さんのコートや写真がかかっている場面があり、少しドキッとします。
イギリスでは産業革命後石炭労働に大変小さな子どもが使われていたそうですが、そのことと何か関係があるのでしょうか。
ページをめくりながら、少し前のイギリスの暮らしぶりにも思いをはせることができそうです。
『きょうというひ』
荒井良二、BL出版、2005年
雪は全部をうずめて、静かにしてくれます。
1年の中で今年も色々な思いをして、12月までくるとそれらがだいぶ積もり重なったようになって。
でも本当は、毎日が新しいぴかぴかの日。一日一日を大切にしようという気持ちを、この絵本は静かに思い出させてくれるのです。
もしあなたが、何かに行き詰まっているなら、雪の景色を見に来ると良いでしょう。
雪は全部を消してくれる。真っ白にした心の中にそーっとろうそくを灯したら、それをどんどん灯したら。
それを消えないように持って帰ることができるなら。
この絵本には雪が降っています。雪国の人が描いたほんものの雪。
出てくるお家は、我が家にそっくりなのでした。
もしここまで来られないなら、あなたにこの本を贈ります。
(文/ねこひ)
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ねこひ 三月の羊内にある世界一小さな絵本屋
三月の羊 北海道産小麦粉100%で作る無添加のお菓子とパンの店
2010年西荻窪から北海道・大沼へ移住
通信販売は現在クリスマス菓子ご予約受付中
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北海道大沼での暮らしを綴る→大沼ねこひ日記