えほんのはなし14「心の奥深くに」

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ねこひさんのえほんのはなしが届きました。

9月は昔話と赤羽末吉さん

時代を重ねて受け継がれる言葉と絵のむこうにあるもの。

どうぞ感じてみてください。

文 / ねこひ

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日本の昔話1 はなさかじい小澤俊夫/再話、赤羽末吉/画、福音館書店、1995

(シリーズ全5巻)

寝る前に子どもたちに絵本を読み、電気を消してお話をするのが私の日課。
3歳と7歳の息子たちのふたりとも聞けるものがあるといいな、という思いと、毎度の冬の不調を切り抜けて自分の心が落ち着くものを、という思いとがあって、かねてから気になっていたこの本をついに我が家へ。
 
昔話は、かつて主に農村で囲炉裏を囲んで語られた物語です。
小澤さんは「幾世代にもわたって語り継がれるうちに磨きに磨かれてきた物語」が口伝えから本にされる時、昔話の併せ持つ残酷さが、本質を見失って排除されがちな事を憂慮して、ご自身が魅了された日本の昔話を、なるべくそのまま後世に伝えたいとこのシリーズを作って下さいました。
日本の四季を意識した並びで5冊に301話が納まっています。

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1冊に50話余り入っているので、我が家では「今日は短いのね」など長さだけリクエストして読むものを息子に選んでもらっています。
これまでにそこそこ昔話に触れてきている自信もあり、下読みなしでいきなりこの本の世界に飛び込んだのですが、そこでは私の度肝を抜くような展開がたくさんあり、子どもたち以上にはらはらドキドキしながら読み進みました。
 
何しろもう声に出して読み始めてしまっているので、一瞬「えっ、これって読んでしまっていいのかな?」とためらうような場面になっても、やめるわけにいきません。私は物語を信じ、小澤さんを信じ、子どものとの絆を信じながら、幾つもの、人によっては子どもに読むのをためらうかもしれないような残酷な場面をも読み通しました。

 ちょっと怖いようなお話でも、子どもの顔を見ると表情ひとつ変わっていないことがよくあります。私はできるだけ感想を求めず、物語が子どもの奥底へ沈み込むのを待った方がいいだろうと思ってそっとしておきました。本当は、「今のどうなの?大丈夫?」と聞きたい気持ちを抑えて。
子どもはだいたいしんとして聞いています。

残忍な部分だけを拾い出して伝える新聞やテレビと違って、物語には必ず始まりと終わりがあり、それ全部を包むこれまで生きてきた日本人の祖先たちの深い知恵や優しさがあります。
小澤さんの選び抜かれた言葉で書かれた物語は、恐ろしさを後に残さず、何かを深く沈めてさっと通り過ぎてゆくようなのでした。

恐ろしいだけでなく、愉快なお話もたくさんありますし、中には短い内に、ドラえもんの長編映画1本分(かそれ以上)もあるような壮大な物語があって新鮮な気持ちになりました。
常々本を開くときには「思いがけない良いものに触れたいな」と期待しつつ、年齢を重ねるとどうしてもどこかで見たような聞いたようなお話が増えてくるのですが、この本では見知ったように思っていたお話でも全く違っていてハッとするような感覚を与えてもらうことが多くありました。
 
巻末に載っている「昔話にでてくる道具」の絵図も子どもとのお楽しみで、急速に変化していく日本の暮らしについて思いをはせました。
私たちが失おうとしている物の中に、確かに何か膨大な宝物が眠っているように思うのです。それが何かわからなくても、お話を通じてたくさんのものが体に流れ込んでくるような気がしました。 

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おへそがえる・ごん赤羽末吉/作・画、福音館書店、1986

(シリーズ全3巻) 

赤羽さんと言えば、子どもの頃から大好きだった『おおきなおおきなおいも』。『だいくとおにろく』を始めとする昔話の挿絵、『スーホの白い馬』など格調の高い代表作も素晴らしいのですが、私には「おいも」寄りのこの絵本がツボです。現在3巻セットは品切れ重版未定で、1巻のみ小学館から改定バージョンが出ています。
 
主人公は茶目っ気たっぷりのかえる。おへそがある。しかもボタン。それを掃除する道具まで持ってる。なんてチャーミング。

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この「えばるな にんげん!」というセリフも大好き。 

多彩な仕事の数々を想い、大御所のイメージが常にありましたが、絵本のお仕事を始めたのは50歳からだそうで、亡くなる80歳までの30年間にあれだけのお仕事をされたことになります。
20代を満州で過ごし戦争が終わって日本へ帰ってきた赤羽さんにとって、中国大陸と異なる日本の風土は新しく目に映り、再発見したものを掘り下げて精力的に作品に盛り込んでゆかれたようです。『おへそがえる・ごん』は、力作をたくさん世に送り出した後のふっと肩の力が抜けた晩年の作品ですが、これほどしっかりした目と技術に支えられた抜け感のある作品はそうそうないのではないでしょうか。

存在は知っていたものの、ちゃんと読んだのは今年のこと。図書館で復刻版を手にして衝撃を受け、どうしても続きを読みたくて古本で2・3巻を求め、やはり横長であることに意味があるなぁと、とうとう1巻も初版をアマゾンしてしまいました。
赤羽さんの表現したかったものそのままを受け取りたかったのです。

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かみなりの「へそとりき」。小道具が秀逸。

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「おいも」のパロディ?お腹に空気を入れて膨らませられたごんがふわり空へ。

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なんだか赤塚不二夫を思わせるシュールだけどキュートな絵柄。

日本の絵巻物を研究した赤羽さんの横長の絵本は、絵巻物から漫画への道筋も垣間見せてくれます。
まだまだ読み切れない、背景のたっぷりある作品たち。これから息子たちと繰り返し読んでいくことで、きっと何度も新しいものを受け取ることでしょう。

 赤羽末吉さんについてもっと知りたい方は、以下もおすすめです。

 私の絵本ろん偕成社、1983年(改訂版:平凡社、2005年)

画集 赤羽末吉の絵本講談社、2010年

(文/ねこひ)

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ねこひ  三月の羊内にある世界一小さな絵本屋

三月の羊 2010年に西荻窪から北海道・大沼へ移住

     通信販売で全国へお菓子とパンをお届け。

     店舗販売は4-11月の毎週土曜日の他、

     最近火・水・金のクッキー販売を開始。

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