Portrait⑥ 「好き」を大切に生きる

Portrait 第6回目は児童文学作家の工藤純子さんです。

 工藤さんの児童書、小学生~中学生の女の子達は読んだことがあるのでは?
どの本も友情と夢と情熱にあふれています。

子どものための本ですが、それだけではもったいない!
大人だって読んでみると惹き込まれる魅力があるのです。

私が初めて出会ったのは卓球を題材にした『ピンポンはねる』シリーズ。

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すっかり大ファンになり・・ぜひ!と思い切ってお願いさせていただいたところ、快くインタビューに応じてくださいました。

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今回のインタビューは美味しくて居心地の良い場所を選びました。

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仙川にあるレキュム・デ・ジュール にて。

 

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魚めがねで世界をみよう!

まずは大好きな『ピンポンはねる』シリーズについて伺いました。

主人公の若菜は小学5年生。いたって普通・・周りの視線を気にしたり自分の意見がはっきりいえない女の子。
そんな若菜が卓球を通じて友情を知り、スポーツを通して"私らしさ"を発見し、自分を信じるようになる物語です。

若菜の前に現れたのは変わり者で、クラスでも浮いている卓球少女シーラ。
最初は「へんなの・・」と思って距離をおいていた若菜ですが、シーラは少しずつ知らない世界を教えてくれる。
「好き!」という気持ちがパワーをくれる!と教えてくれたのもシーラ。
卓球を通していつしかふたりは親友になっていきます。

そのほか個性的な卓球仲間が登場し、心がつながることで自分を強く持てるようになる物語。

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( インタビューyuki = Y 

Y 『ピンポンはねる』は友情、卓球、好きパワー!色んなことが詰まっていますね。この本で最初に思い描いたキャラクターは誰ですか?

工藤さん 最初はシーラを書きたい!と思ってスタートしました。ある日、虫眼鏡を片手に道草している男の子を見つけて・・様子を見ていると、じーっとありんこをみたり色々のぞいていて・・虫眼鏡を通して見ている世界は、私の見ている世界と違うのかな?と思ったのがきっかけでした。


『ピンポンはねる』の中でシーラの宝物は「魚めがね」。(魚めがねはいわゆる魚眼レンズです)

魚めがねでのぞいた世界はあれれ?いつもと違う!
ひとりひとり見えている世界は違う、いろんなホントがある!

というシーンがあり、大人でもうっかり忘れてしまう大事なことだなぁと思った印象的な場面です。

 

Y 卓球が題材というのも面白いですよね。児童書ではあまり見ないかも。

工藤さん はい、メジャーなものよりもマニアックなところから見つけるのが好きです^^他にも、スキーのモーグルという競技を描いた『モーグルビート!』なんかもあまり題材に選ばれないスポーツですが、本を読んで興味を持ってくれたら嬉しいなと思います。それに知っていくと卓球もモーグルもとても奥深くて面白いんです!

Y 好きパワー』が力になる!という表現がとても好きでした。このあたりは工藤さんの想い?または伝えたい事?

工藤さん「私の書く本の全てのテーマですね。「好き」という気持ちがとても大切なのは、自分の人生の中で実感しています。子ども達には好きなもの、好きなコトを見つけてほしい。自分の力になるし、人生が豊かになります。すぐに見つからない場合もあるけれど、そんな時は色々やってみることが大事だと思います。」

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夢に気づかせてくれたのは小さな私

自分の人生で実感した体験とは?そもそもどうして作家になったのか?を伺ってみました。

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(資料を見ながらお話する工藤純子さん)

工藤さんの夢のはじまりは、小学5年生の頃。
「物語をつくって交換しない?」という友達の誘いをなんとなく引受けてスタート。物語を書いてお互いに感想を書き合ったそう。
それが、思いがけず楽しくて卒業するまで2年間も続きました。

物語は様々、SF、ファンタジー、クラス対抗ドッヂボール大会のなんていうのも^^

「好きなコト」に目覚めて卒業文集には子どもの本を書く作家になりたいと、書いたのだそうです。
なんともドラマチックですが、、実はその夢は大人になるまですっかり忘れてしまっていました。

でも・・10年後のある日。
小学校時代のタイムカプセルにしまわれていたカセットテープを聞く機会が訪れます。

「未来の私、ちゃんと夢を叶えてくれた?」

テープから流れてきた子どもの頃の自分の声。ハッとしたそうです。私の夢、私の好きなコト・・そうだった!
子どもの頃の自分に背中を押されたものの、「そんなのムリに決まってる!」と、なかなか夢に向き合えません。でも、それからさらに数年後、やっぱり子どもの時の想いを忘れられず、作家修行の道へ進みます。
簡単ではなかったけれど、「好き」という気持ちを力にドンドン突き進み、、時に挫折を味わってもあきらめず、ついに最初の本『GO!GO!チアーズ』発売!

工藤さん 大人になっても可能性をせばめず、子どもの頃の夢を振り返る事も人生のヒントになると思うんです。私の本には愛とか勇気がストレートに書いてあって子ども達はそれを真っすぐ受け止めてくれます。大人にはちょっと気恥ずかしく感じるかもしれない。でも、意外と真っすぐな言葉を必要としている人もいるはず。ぜひ大人の方にも読んでほしいなと思います。

Y 私はむしろ子どもだけではもったいない!って思いました。人生の中で忘れかけていた純粋な気持ちが蘇り元気が出ましたよ。大人こそ、読んだら力になるはず^^

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「美味しい」物語で広がる輪

工藤さんの本にはお菓子を題材にしたシリーズもあり、読んで楽しいだけではなくとても美味しそう。作ってみたいと思うお菓子がいっぱい出てきます。

『恋する和パティシエール』シリーズの主人公は和菓子屋さんの娘、杏ちゃん。あだ名はあんこ。和菓子大好きな杏ちゃん、友達と新しい和菓子作りに頑張るお話。
「美味しい!」で人を喜ばせる。和菓子で「輪」が広がる。それがこの本のテーマです。

Y またまた洋菓子と比べるとマイナーな和菓子が題材ですね。私は大好きですが^^。

工藤さん 私も大好きです^^日本のお菓子から行事や伝統を学んで日本を好きになってほしいなと思い題材に選びました。物語を通して子ども達に日本の四季や美しさを伝えたいと思います。 

Y 創作のお菓子は誰が考えているのですか?

工藤さん 全部自分なんです!もちろん、最終的には専門家の方にチェックしていただきますが、和菓子教室に通ってみたり、試作をいっぱいして何度も試食。でも、どの本でもそうですが、調べたり学んだりする過程で色々な出会いがあるので、そこが楽しいところなんです。

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書き続けることで出逢えるものとその先

Y では作家としての工藤さんに質問です。日々書いていく上で一番力をくれるものはなんでしょう?

工藤さん 色々ありますが、まずは読者の方が送ってくれるファンレターです。不思議な事に、落ち込んだ時などにタイムリーに届くんですよ^^いつも勇気をもらえます。

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(ファンレターの一部。似顔絵や作ったお菓子の写真も!)

工藤さん 小さな女の子から読者である子どものおばあちゃんまで色々な方が送ってくれます。読んでみると、物語より現実の方がドラマチック!なこともあるんです。ファンレターは私の宝物です

ファンレターは送っても読んでもらえないと思う子ども達もいると思いますが、工藤さんの読者の方はぜひ送らなくては!ですね!
では、ご家族はどうですか?(工藤さんは2人のお子さんがいるお母さんでもあります)

工藤さん 文章を書いていてノってくると時間を忘れてしまいますが、家族がいるので時間の切り替えが出来るんです。ひとり暮らしの頃には、夢中になり過ぎて食べるのを忘れたりしてましたから。こうしてやりたいことができているのは家族のサポートがあってこそなので感謝してます。

Y 工藤さんがこれから挑戦したい事はありますか?

工藤さん 幅を広げて書いていきたいです。絵本だったり、中高生向けの本もいいな。恋愛をテーマにしたものも書いてみたいんです!書いていく事で、この歳になっても成長を感じられることが、すごく嬉しい。それに、書くたびに楽しい素敵な出会いがあり、原動力のひとつになっています。
書く事が好きなので、こだわりなく様々なジャンルに挑戦していきたいです。

Y 本を書く事でつながる輪。とっても素敵ですね!今日は本当にありがとうございました!

 

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工藤さんの本にあふれる前向きな気持ち。
「好き」だからこそ頑張れる!を体現されているからこそ輪が広がるのだと思えました。

学生時代は周りの友人にあわせたり、自分だけ浮いたら恥ずかしいと思ったり・・そんなことも多かった。子どもだって意外と苦労が多くて大変。工藤さんの本には、素直にその中で悩みながら葛藤して成長する子ども達がいます。

本を読んで夢を持って生きる事は素敵なこと、真剣に何かに打ち込む事はカッコイイことだと思う子どもが増えたらいいなぁと思いました。本には、そういう力がありますよね!

そして、大人になっても意外と同じことがある。素直な言葉、真っすぐな言葉が必要なのは子どもだけではないと思います。それに夢いっぱいな物語も。

ぜひ、大人も子どもも皆さん読んでみてください!


インタビュー/ y u k i

 
<工藤純子さんプロフィール>
東京都在住 季節風同人。日本児童文学者協会会員。
「GO!GO!チアーズ」でデビュー。
「ピンポンはねる」シリーズ
「モーグルビート!」「モーグルビート!再会」
「恋する和パティシエール」シリーズ
「ダンシング☆ハイ」シリーズ(以上ポプラ社)
「ミラクル☆キッチン」シリー
ズ(そうえん社)
「ゴーストファイル」シリーズ(岩崎書店)
「ふしぎ日和」(主婦の友社)など。
 
工藤純子さん著書本一覧
 
趣味:おいしいものを食べること 
座右の銘:ネバーギブアップ♪

2016年2月または3月頃「ダンシング☆ハイ」4巻目発売予定!