えほんのはなし11「ベージュの本の中に」

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ねこひさんのえほんのはなし。

9月は「こどものとも」シリーズ!

堀内誠一さんの絵本と神沢利子さん×井上洋介さんの絵本。

どちらもきっと読みたくなることうけあいです!

文 / ねこひ

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子どもたちに本物の名作絵本を存分に味わってほしい、との思いから1956年に創刊された
福音館書店の「こどものとも」シリーズは、ペーパーバックでありながら、いずれ劣らぬ名作揃い。
 
現在でも品質は受け継がれているけれど、松井直さんが編集に携わり、
作家たちに直接声を掛けていた頃の「こどものとも」は、アツい思いに溢れ、
とりわけすばらしいように思います。
 
子どもの頃読んだ「こどものとも」シリーズの中に、強烈な印象を残している絵本が
幾つかあるのですが、今振り返ってみると日本人作家が多く、
あまりポピュラーでないけれど味わい深く独創的なそれらの作品を眺めて、
幼少時代にもう、好みが出来上がっているんだな、と笑ってしまいました。
 
今回は、作者は有名どころなのに意外と知名度の低そうな、私の宝物たちを紹介します。 
 
 
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『こぶたのまーち』村山桂子作・堀内誠一絵、福音館書店(「こどものとも」1969年) 
   
堀内誠一さんと言えば、『ぐるんぱのようちえん』『たろうのおつかい』などカラフルで大らかな
色使いの絵本が有名です。
60年-70代に活躍したグラフィックデザイナー、エディトリアルデザイナーでもあり、 
雑誌「BRUTUS」「POPYE」などは今でも彼の作ったロゴをそのまま使っています。
彼がアートディレクションを手掛けた創刊当初の「anan」の表紙は、今見ても
画期的な美しさで、私はデザインをするときにはいつもその潔さと美しさを心の片隅に思い浮かべます。
参考→http://dacapo.magazineworld.jp/culture/9106/
 
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前置きが長くなりました。今回ご紹介する『こぶたのまーち』は、黒と赤と黄色だけで 
作られた、ある意味地味な絵本。
でもこのトーンだからこそ、堀内さんの力量をたっぷり感じられる気がするのです。
 
力強い大胆なタッチと、限られた色を最大限に生かして配色した絵は、
ミニマムながらダイナミックでとても自由で、子どもたちの心を一気に主人公るーに近づけます。
 
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ストーリーも素朴ながらあまり見ない展開でお気に入り。
こぶたのるーの嫌いなものはらっぱの練習。らっぱの上手なお父さんの指導を逃れたい一心で、
ある日お父さんの大きならっぱにもぐりこむのですが...。
さぁ、気になった人はぜひ手に取ってみてください。
アマゾンなどで手に入ります。図書館には紙芝居や大型絵本もあるでしょう。
  
 
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『だれかがぱいをたべにきた』神沢利子作・井上洋介絵(「こどものとも」1970年) 

これまた大御所のふたりですが、この地味な表紙を見てください。
大人が考える「子どもが喜びそうな絵本」とは随分違いますね。
ゴッホのような井上さんの絵が、ちょっとへんてこなお話によく合っています。
 
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パイの好きなおばあさんが、小麦から自分で育ててとっておきのパイを焼くのです。
バターも砂糖もたっぷり入れたおいしいパイ。
「こんなぱいは、だれにもあげたかないね。あたしひとりでみんなたべちまうんだ。」 
  
こういう大人をさらっとユーモラスに描ける神沢利子さんや佐野洋子さんが大好きです。佐野さんの『だってだってのおばあさん』にも、大人げないキュートなおばあさんが出てきましたっけ。
  
絵本から学ぼうとか学ばせようというケチな心を持って絵本を開くことを、私はあまりおすすめしません。
学習の場ではないのです。絵本は楽しいところ。開くとそこに、思いがけない世界が待っています。
そこには作者たちが世界を笑いながら見た楽しいエキスがぎゅっと詰まっていて、
ときには悲しみのエッセンスが入っていて、ときにはそういったものは何も入っていなくてカラッとしている、とても自由な世界です。
 
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さて、おばあさんはとっておきのパイを焼き始めるのですが、途中で周りが見えなくなってしまいます。
音だけでパイを狙う誰かを推測し、何とかパイを守ろうとするのですが...。
こんなに面白くってへんてこで、出てくるものがこれほどおいしそうなお話、他にあったかしら。
かまどで焼いたとっておきのパイ、いつか食べてみたいですね。
 

(文/ねこひ)

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ねこひ  三月の羊内にある世界一小さな絵本屋

三月の羊 2010年に西荻窪から北海道・大沼へ移住
     現在は通信販売を中心に営業。5-11月は土曜日に店舗販売あり。
     
     041-1353北海道亀田郡七飯町上軍川9-11
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