えほんのはなし11「冒険の入口」

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 6月のえほんのはなしは、タンタンが登場!

ぐぐっとタンタンの魅力に迫ります!

文 / ねこひ

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「タンタンの冒険」エルジュ作、川口恵子訳、福音館書店

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2階から「スノーウィ―!」という感嘆と一緒にこぼれ落ちるような笑い声が聞こえてくる。
息子がタンタンを読んでいるのだ。

「タンタンの冒険」は、1929年にベルギーの子ども向け新聞に初掲載されて以来、 世界中で親しまれている冒険漫画だ。
少年記者タンタンと愛犬スノーウィが世界中を駆け巡り、痛快に事件を解決していく。 

「7歳から77歳の全ての若者へ」と作者エルジュが書き上げたシリーズ24作は既に世界中にファンがおり、その魅力は今さら私が紹介するまでもない。
でも、周りに聞いてみると、タンタンは知ってるけど読んだことはないという人が意外と多かった。

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古代遺跡や天文、モチーフは魅力的だけど字が小さく根気がいる。説明が多い。
私もこれまで1冊きりで挫折してたのだけど、この冬たまたま図書館で夫が借りてきた『金のはさみのカニ』を、5歳の息子がゲラゲラ笑いながら夢中で読んでいるのがあまりに楽しそうだったで、隣に寝っ転がって一緒に音読してみた。
すると今までと全く違う、生き生きとしたタンタンの世界が見えて、その魅力をみなさんにも伝えたくなった。

24冊のうちどこから入るのかも重要だと思う。
万が一まじめな人が、現在のシリーズの書かれた年代順に読んでいこうとしたら、2,3冊目で挫折するかもしれない。記念すべき一作目『タンタンソビエトへ行く』はモノクロでキャラクターも他の作とだいぶ違うし、2-3作目は1930年代の偏見を色濃く残す。 
 
私は『ふしぎな流れ星』『黒い島のひみつ』から入った。
『ふしぎな流れ星』は独立したお話で、10作目とあってエルジュの作風も乗ってきている感じがする。モノクロがカラーになったのもこの作からだそうだ(後に1作目を除く以前の作品もカラー化された)。 

息子にとっては『金のはさみのカニ』で出会った、行儀の良い児童書にはまず出てこない酔っぱらいで口の悪い船長のキャラクターがとても新鮮だったようだ。
まだ漫画は『クレヨンしんちゃん』しか読んだことがなく、漫画というだけでその独特の表現が面白かったのもあるだろう。

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目を引いたのはまず画面の完成された美しさ。色使いがとにかくお洒落で、どのコマも見飽きることがない。
それから、何十年も前に書かれたとは思えないアイデアの斬新さ。
『ふしぎな流れ星』を読んだとき、こんな面白い本を読んだのはいつ以来だろう、と思うくらい楽しかった。
 
そしてそれを支えているのは、何と言っても川口さんの名訳と、大川おさ武さんの描き文字ではないだろうか。
今回私がタンタンにはまった理由のひとつは、文字数が多いにも関わらず読み上げてストレスのない、そして目にも優しい手書きの日本語だったと思う。
『黒い島のひみつ』でスコットランドの田舎言葉を甲州弁に訳すなど、随所に川口さんのセンスとインテリジェンスが光っている。  

古典的でありながら、古さを感じさせないタンタンの世界。
ムーミン谷に負けない個性的な登場人物の魅力も際立っている。
遺跡好きの友達が「理想のタイプはタンタン!」と言っていた気持ち、わかるなぁ。
お行儀がいいのにしっかり怒って、万能なのに控えめで、決してあきらめないタンタン。 
愛犬スノーウィとの愛情たっぷりなやりとりがたまらない。
裏付けはないけど、「宇宙兄弟」の日々人のモデルってタンタンじゃないかしら、とこっそり思う。

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(左:夫所蔵の『金のはさみのカニ』エスペラント版、右:日本語ペーパーバック版) 
 
シリーズのうち幾つかは2冊続きになっていて、とても読み応えがある。
『ななつの水晶球』と『太陽の神殿』は、ぜひ慣れた頃読んでいただきたい。
『めざすは月』『月世界探検』では、ついに月まで行ってしまった。
これがまだ人類が月へ行く前に書かれたなんて!

福音館書店のシリーズは、当初どの刊から出したら読者が入りやすいか入念な検討のもとに刊行されたそうだ。
(ちなみにその時の1冊目は『黒い島のひみつ』2冊目は『ふしぎな流れ星』。)
その後、日本にかなりタンタンが浸透したので、2011年のリニューアル版からは書かれた出版年順に並べ替えられた。
 
シリーズどこからでも読めるけど、ところどころに前の話のネタが含まれ、お話の世界が一続きになっているので、すっぽりタンタンワールドに入ったら、書かれた順に読みたくなる。
私はたまたま福音館書店が考えた入りやすい最初の2冊から入り、続いて『タンタンチベットへゆく』で夢中になり、貪るようにその後5冊くらい真ん中辺の作品を読み進めたところ、前の話がちょこちょこ出てくるのに気づいて出来る限り最初から順に読むようにしていった。
 
未読があと4冊。すごく楽しみだ。全部読み終わったら、もう一度初めから順に読んでみたいと思う。
丁度息子と5-6冊読んだ頃、ペーパーバック版タンタンを入学祝いにいただいて、そのシンクロぶりに感激してしまった。まだ息子がタンタンに夢中だと誰にも言っていなかったのに。
それから、タンタンが理想の人、と言っていた友達からも同じ時期に連絡をもらった。 
彼女とは学生時代一緒にエジプトに行った仲なのだけど、15年以上連絡不通だった。  

タンタンを通して私にもたらされた幸運はたくさんある。
今は6歳となった息子のやわらかい心の時期に一緒にこの世界を冒険できたことは、一生の宝物になるだろう。
タンタン、エルジュさん、ありがとう!
半世紀以上を飛び越えて、タンタンの勇気と爽やかさ、エルジュさんの世界への好奇心と愛情たっぷりのユーモアを受け取る。
それは確実に、今を生きる栄養になっている。
 

もっと知りたい人へ
●福音館書店のHPより
http://www.fukuinkan.co.jp/ninkimono/tintin/lineup.html
●タンタンジャパン
http://www.tintin.co.jp/

(文/ねこひ)

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ねこひ  三月の羊内にある世界一小さな絵本屋

三月の羊 2010年に西荻窪から北海道・大沼へ移住
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