えほんのはなし、今月から小さな絵本屋「ねこひ」の店長さんが登場です。
これから2ヶ月おきにこちらに登場してくださいます。
6月はブルーナさんの絵本と北海道へ移住した頃の話。
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ブルーナのミッフィーちゃんといえば、もはやおすすめするまでもなく
皆さん手にとられていることと思います。
それでも敢えて、はじめに改めてこの絵本を。
2010年、住み慣れた西荻窪の町を離れ、身寄りがあるわけでもない北海道の大沼へ引っ越した私たち家族です。
数年かけて土地を探し、家を建て、土曜限定の店舗を作ることができました。
ポット苗がようやく土に植えられて根を伸ばすように、今安定した気持ちでここにいますが、
これまでの数年は体が慣れず、知らない人ばかりの土地でけっこう精神的にも大変でした。
そのピークにあったとき、私を支えてくれたのは子どもの頃から親しんだ古いうさこちゃんの絵本でした。
絵本好きな息子にとって、絵本は毎日の食事と一緒。
ところがあるとき私は頭の中がぐしゃぐしゃになって、絵本を読むことがつらいという状態になっていました。
ちょうど、質問が大好きな3歳児。
例えばこぐまちゃんの絵本に困りました。
エプロンをかけたくまを指差し、「これはお母さん?」という彼の質問。
私の頭の中。
エプロンをしているから、おそらく作者はお母さんとして描いたろう。
でも、「エプロン→お母さん」なんてステレオタイプな答えをしてしまっていいのかしら。
「うちではお父さんもエプロンをするけど、このくまさんはお母さんかもね」
3歳の子どもにこんな回りくどい答え(笑)。
答えに困りながら、息子に本を読むのが初めてイヤだと感じた時でした。
そして、何か今の私にも読める本はないかしら、と見回して手に取った本がブルーナの第1集です。
この4冊は、息子が1歳のとき毎日何十回も読んで、とうとう2歳にならないうちに
彼がある日暗唱しはじめるくらい読み込んだ絵本です。
本を開いて、私は驚きました。
余白が多いうさこちゃんの世界ですが、そこには、私の迷う隙は一切ありませんでした。
なんて確かな世界。
選び抜かれた言葉と、考え抜かれた絵の構図、色。
全てが完璧なバランスで、そこにあるのです。
うさこちゃんを読んでいる限りは、息子から質問攻めにあうことがありませんでした。
これは、ブルーナさんが何千枚という下書きの末に絵を完成させ、文を完成させ、というものすごい修練に支えられた底力に違いありません。
うさこちゃんの絵を見ている間、どのページでも私は心底幸せな気持ちになります。
そして、もう何百回と読んでいるのに、全く飽きることがありません。
仕事をするとき、私はブルーナさんを想います。
あれほどの厳しさは、自分には持つことができないけれど、あの、本当につらかったときに出会ったうさこちゃんの奥深さ、
そういう仕事に、一歩でも近づけたらと思います。
少し暗い話になってしまいましたが、今そこを抜けたからこそみなさんに話せるエピソードでした。
ありふれた書評ではなく、個人的な絵本経験をこれからお話しできたらと思います。
ここで、みなさんにお会いできて嬉しいです。
文/ねこひ
書誌データ 子どもがはじめてであう絵本第1集 ディック・ブルーナ作
いしいももこ訳、福音館書店
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小さな絵本屋「ねこひ」は北海道の大沼にある焼き菓子屋・三月の羊のなかにあります。
三月の羊
北海道亀田郡七飯町上軍川9−11
◎通信販売は通年 店舗販売はG.W.ー11月の毎週土曜