えほんのはなし18「本の中の森」

18_top.jpg

今回は本の中の森へ誘われる2冊をご紹介。

とても豊かな森です。

北海道の森の中、ねこひさんから届きました。

文 / ねこひ

* * *

「とり」キンダーブック第25集第7編10月号、フレーベル館、1970年

子どもの頃、新興住宅地で育ったのに、何故か森の中を散歩していたような感覚があります。もちろん、祖父の家のあたりや「群馬の森」など、ほんとの経験もあるけれど、それだけじゃない。その散歩は、たぶん本の中だったのだと、ある時気づいたのでした。

それは、大人になって『誰も知らない小さな国』を読み返した時のこと。ある森の中の場面を読んだ時、その場所を、まるで実体験したように思い出すことができたのです。私はこの本の森の中をそれほどリアルに体験したんだ、と衝撃的でした。

佐藤さとるさん&村上勉さんの名コンビ。私はおふたりの世界を多量に摂取して、現実の環境に足りない自然を楽しみ、自然への敬意や親しみを育んだ気がします。佐藤さとるさんは、日本のリアルファンタジーの分野を切り開いた児童文学作家(代表作はコロボックルシリーズ)。そして佐藤さんの世界と切り離すことのできない挿画家が、村上勉さんです。幅広いお仕事をされていますが、独特のやわらかいタッチが魅力で、昔話からSFまで、これまたリアルファンタジーという言葉がぴったりな、写実的ではあるけれど、どこかファンタジックな絵柄で、村上さんにしか出せない世界観があります。

tori1.jpg

村上さんの描く自然は、温かみがあります。写真絵本や写実的すぎる絵の自然観察絵本には入り込めないタイプの子でも、村上さんの絵なら物語を読むようにすーっと入っていけるのではないでしょうか。

tori2.jpg

tori3.jpg

この本は沼地から草原、藪、森、最後は街へと変遷してゆく大地の移り変わりとともに、そこに集う鳥たちの変化をやさしく紹介しています。定点観測で時代が移り変わる面白さや、環境が変わることで生息する鳥が変わってゆく面白さを、あまり鳥に詳しくなくても楽しむことができるでしょう。

あなたの今住んでいる場所は、どのページに近いでしょうか。

 

「66このたまご」おくやまたえこ作・絵、福音館書店、1977年

mori1.jpg

もう一冊は、「こどものとも」のバックナンバーから。

幼心に不思議な印象の絵本でした。おばあさんの装いはいかにも日本的なのですが、森の雰囲気や家の前が切り開かれた感じ、きいちごを摘むのねずみなどは、まるで外国のよう。そのちぐはぐさが他にない魅力を生み出しています。大人になって見ると、ごく日本的なモチーフを取り入れながら、西洋的な視点、西洋的な手法で描いている為独特な雰囲気になっているようです。

mori2.jpg

mori3.jpg

森のはずれで鳥たちに囲まれて暮らすおばあさん。66個の卵が孵るのを楽しみにしていたある日、鳥たちの卵が盗まれてしまいました。おばあさんは卵を取り返しに森の奥へ...。「たまご酒」ってどんな味なんだろうというワクワクや、ちょっと間抜けなアナグマの様子、程よくリアルな色とりどりの鳥、勇敢なおばあさんの姿など、この本を特別に感じた理由は幾つも見つかるのですが、今回、魅力の土台を奥山さんの描く自然が支えていたのかもしれない、と気づきました。読書中すっぽりと包まれたような森の中を楽しめます。

mori4.jpg

mori5.jpg

奥山さんは『スプリング・エフェメラル』という科学絵本も出していますが、こちらを読んで北国の人だ!とわかりました。雪の下で春を待ち、咲くと跡形もなく地面の上のものはたたんで力を蓄える植物たちについて書いていたのです。プロフィールを見ると、秋田のご出身でした。

自然を描くとき、そこには作者の自然観が表れているでしょう。「とり」も「66このたまご」も、愛情深い目、小さなものや見えないものに向けられる目、ファンタジーだけではない、地に足の着いた自然への眼差しを感じます。読んでいる間中、何かとてもやさしい気持ちを運んで来てくれるから、この絵本たちは魅力的なのでしょうね。どちらも絶版ですが、古本屋さんなどで見かけましたらぜひ手に取っていただきたい名作です。

(文/ねこひ) 

**************

 

mise17_3.jpg

ねこひ 三月の羊内にある世界一小さな絵本屋

三月の羊 北海道産小麦粉100%で作る無添加のお菓子とパンの店

2010年西荻窪から北海道・大沼へ移住
通信販売は通年営業 
店舗販売は4月ー11月 火曜・水曜と金曜・土曜

041-1353北海道亀田郡七飯町上軍川9-11
T/F  0138-67-2077
http://rumlamb.tea-nifty.com/

北海道大沼での暮らしを綴る→大沼ねこひ日記