Portrait 第7回目はガラス作家の中野幹子さん。
繊細な線で描かれ独特の世界観が広がる中野さんのガラス。
作家としてスタートした頃から、もう何年も大好きでずっと見続けています。
そして作家としての顔とともに、とても共感している中野さんの子育てへの想い。
鎌倉山で創作活動を続けながら自然豊かな中での子育てと
その暮らしについてお話を聞いてきました。
* * *
当日は鎌倉駅近くカフェで待合せ。
中野さんがよく行かれるというワンダーキッチンです。
うっかり見過ごしてしまいそうな路地裏にある隠れ家カフェでした。
ランチも美味しかったです^^
( インタビューyuki = Y )
きっかけは土地探し
「鎌倉に住む」ことに憧れる方も多いと思います。私もそのひとり。
中野さんは元々は杉並に暮らしていましたが、鎌倉に住まいを決めた理由を聞いてみました。
Y どうして鎌倉に住むことになったのですか?
中野さん 実は鎌倉がすごく好きで・・という理由で選んだ訳ではなかったのです。以前住んでいた家が手狭になり、そろそろ家を建てようと土地を探しはじめたのがきっかけ。
主に都内を探していましたが、そのうち鎌倉山の崖のある土地を見つけてなんとなく見に行ってみました。さすがにその崖のある土地は不安でしたが、その時の縁で鎌倉山の別の土地を紹介され、ここに家を建てることになりました。
Y そうなのですね!私はすっかり鎌倉が好きで住みたかった場所だったのかと思っていました。
中野さん そう思われる事が多いのですが、本当に偶然なんです。はじめは都内に出るのが大変だったり、のんびりしている雰囲気が慣れずにいましたが今ではすっかり馴染んでいます^^
Y 鎌倉山は鎌倉駅から車で10分ほどの場所ですよね。移動は車ですか?
中野さん やっぱり車がないと不便な場所なので、ここに引っ越してきてから小さな自分用の車に乗るようになりました。
家をつくる
鎌倉駅から車で10分ほど。長い坂を登っていくと、白壁のかっこいいご自宅に到着!
家の1階は中野さんの工房兼事務所と夫のOさんの事務所。(旦那様はフリーデザイナーです)工房で小さな窯を使うため、コンクリート仕様になったそう。
2階はリビングとキッチン。家族の時間はこの場所で過ごしているのだとか。小学2年生になる息子のS君が宿題をやるのもこの部屋。
そして、壁には息子君の作品がずらり!
里山で拾ってきた宝物も飾ってあります。好奇心旺盛な男の子なんですね^^
のびのびと成長していることが伺えます。
Y 床材に味わいがあって良いですね。壁とコントラストがあって素敵です。
中野さん 家が主にコンクリート仕様なので床は素材がそのまま感じられるものにしたかったのです。自然素材なので収縮するのが面白いですよ^^
鎌倉でつながった縁 自主保育との出会い
中野さんはいつもSNSなどで自然とふれあいながら育つ息子S君の姿を発信されていて、とても興味がありました。拾ってくる野の実や葉っぱ、里山散歩やどろんこ遊び。
どんなことをしているのかな?自主保育ってなんだろう?
その出会いもまた偶然からだったそうです。
Y 元々、子育てには「ぜひ自主保育で!」という気持ちがあったのですか?
中野さん いえ、全然。妊娠中にガラス作家の先輩が1才のお子さんがいるお友達を紹介してくれたんです。その方が鍼灸士 さんだったので、お子さんは保育園ですか?と聞いたら、「自主保育なんですよ」と。そこで初めて 自主保育というものがあることを知りました。その方に谷戸とよばれる所にも連れていっていただき ました。とても気持ちのいい場所でした。
そして産後、市の保健センターから新生児訪問に来てくれた助産師さんが4才のお嬢さんがいるというので、やはり保育園ですか?と聞くと、「いえいえ、自主保育なんですよ」って。仕事しながら出 来るものですか?と質問すると、毎日お勤めの人だと難しいけれど自営のお母さんなら何人か参加しているとのお話でした。
その後1才になった時、仕事で子どもを預けなくてはならなくなり、市のファミリーサポートに登録 したんです。紹介された支援会員のTさんは画家さんで、やはり3才のお子さんがいました。保育園 ですか?と聞くと、またまた「自主保育なんです」という答えが・・・!驚きました。
Tさんのお宅で「この表紙の子がうちの子です」と差し出されたのが、『土の匂いの子 』という自主保育ついて書かれた本でした。読んで、素晴らしい!これこそ理想の保育!といっぺんで惚れ込みましたが、それでもまだ自分には無理だろうなぁと思っていました。
でもしばらく考えるうちに、息子の誕生をきっかけに出会い、お世話になった方がみなさん自主保育で子育てをしているというのはきっと何かのご縁にちがいない、思い切って参加してみよう!ということになったんです。
Y 自主保育ではお父さんの参加も多いと思いますが旦那さまはすぐに賛成しましたか?
中野さん 参加にあたっては、もちろん相談しました。幸い夫はフリーで仕事しているので、作家として私が出来ない時には自主保育の当番を変わってくれたり可能な限り協力してくれました。それから、自主保育のお母さん達にもたくさん助けていただきました。
青空自主保育 なかよし会とはどんなところ?
では、中野さんが参加されていた自主保育グループ、なかよし会ではどんな活動をしていたのでしょうか?
青空自主保育 なかよし会は鎌倉に約30年前に出来た自主保育グループです。きっかけはお母さん同士の預け合いなのだそう。
お母さんになると自分の時間がなくなってしまうので、みんなで預け合って心のゆとりを持とう。そして子ども達の仲間作りをしよう。鎌倉の自然の中で思い切りあそばせよう。
という趣旨の元に始まったそうです。
Y なかよし会は毎日行くのですか?
中野さん いえ、1才~2才は週2回、3才~4才は週3回、3年間を通います。専任の保育者がいるので、お母さんの当番は月に2~3回でした。主に里山歩き、遊具のない公園遊び、海、川、雨の 日は児童館におじゃまします。 また畑を持っているので野菜を育てる楽しみもあります。
お母さん当番は月に2~3回ですが、運営面の仕事もあり行事の準備もします。運動会の綱引きのために里山でいろいろな植物の蔓をとってきて綱を作ったりしましたよ!
Y なるほど~。保育園の先生のようですね^^参加されている方はどんな方なのですか?
中野さん やはり専業主婦の方が多かったですね。それと私のように自営の方や時間に融通のきく仕事の方。
Y 4才までということは、小学校までの2年間はどうしたのですか?
中野さん 自主保育を卒業すると幼稚園に行く方もいますが、我が家は自主保育幼稚園やんちゃおに参加しました。こちらは専任保育者はいないので完全に親のみの自主保育。楽しかったけれど、なかなか大変でした!^^
子ども達と歩く里山、道、歴代の母達が実際に歩いて調べて作った地図にまた新しい書き込みを入れ ていきます。
お手製の地図。
※倒れ木があるので、大きい子はまたいで渡る、小さい子は道の上に登って・・、さくをくぐって山道に入るなど書込みがいっぱい。
活動終わりには話合いをして、今日の様子を報告しあったり、年間のスケジュールに行事の準備、とにかくすべて自分達で考えて実施していきます。
Y お母さんでありながら、保育者でもあるということですよね?小さな子どもの場合、ケンカしたりもめたりすることも多いと思いますが、自分の子どもがその中にいると対応するときに複雑な気持ちもありますよね?
中野さん ケンカなどでは基本姿勢として、仲裁しないで見守るのが自主保育での考えなので、最初は複雑でした。自分の子どもが何かしてしまった場合も、される場合も。
でも、見ていると子ども達が自分で解決する力がある事を知って「見ている」=放任ではなく、見てくれていることの安心感は子ども達にとってとても大事なことだと自主保育で学びました。
葛藤も多かったですが、親として学ぶことが多かった時間でした。
Y それでは小学校に入学して、淋しかったのでは?
中野さん いえいえ、さみしいよりもやりきった!という解放感でいっぱいですよ^^
Y 自主保育に通った事でお子さんはどうだったでしょう?
中野さん 他の子に比べて幼くマイペースで気弱なところもありましたが、小学校へ割と自立して通うようになりました。学校が遠いのでバス通学になるため、最初は途中まで迎えに行ったのですが、登校2日目から「お母さんがいると頑張れなくなるから、来ないで。」とキッパリ言われて、力強くなったなぁと思ってま す。
今の時間
Y ガラス作家として母として、自分の中で時間の区切りはありますか?
中野さん 作る時間はきちんと分けていています。息子が横にいて出来る作業もありますが描くときなど集中する作業の時にはひとりの時間を作るようにしています。
でも、子どもがいない頃のような作品作りに没頭する状態はもうないわけですから、それを求めるのではなく、今の自分で出来る制作活動をしています。
ありがたいことにギャラリーの方から展覧会のお声掛けしてもらう機会もありますが、以前のように個展を年に数回ひらくのはむずかしいので、今は年にほぼ1回。そこで今の自分の表現を形にしています。
『ただいまー!』(ちょうどお子さんが帰ってきました!)
息子君はお友達と遊ぶ約束があるからと、颯爽と出かけていきました。元気いっぱいです^^
Y 子どもが出来たことでどんな発見がありましたか?
中野さん もう発見だらけです!息子がいなかったら出会わなかっただろう人達との出会い、地域や社会との出会い、とくに里山歩きの道は鎌倉の住人にもあまり知られていない秘密基地のようなところばかり。
子どもが連れて行ってくれる世界、場所、コト、は本当にいっぱいで、すべてが自分に積み重なっています。
鎌倉山は息子が呼んでくれた場所なんじゃないかな、と夫とよく話しています。
Y 本当に!お話を伺って、まるで呼ばれるように縁が繋がっていますよね。すてきな不思議です。子どもってそういう力があると思います!
今日は長い時間ありがとうございました!
+ + +
帰り道、鎌倉山から海が見えるのを教えてくれました。
そこからの眺めや里山で拾ってくる自然の植物達や日々の暮らしが中野さんの中に降り積もり、作品になって現れるのかな?
子育ての形も生き方も人それぞれ。
作家として生きること、子育てをすること、それを分けるのではなく、その全てが自分に繋がりその人の生き方になるのだと思えました。
インタビュー/ y u k i
都立芸術高校で油絵を学び、イタリアに渡り銅版画を専攻、滞在中ステンドグラス工房に見習いとして通いガラスと出会う。富山ガラス研究所、横浜のガラス工房勤務などを経て作家活動を開始。年数回、個展または企画展に参加している。
▽今後の予定▽
8人のガラス作家による『ガラスの贈り物展』
横浜画廊・元町店
2015年12月18日(金)~12月24日(木)
AM11:00~PM6:00(最終日PM4:00まで)
横浜市中区元町5-185-3 2階
◎個展 2016年春 三越伊勢丹新宿店
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青空自主保育なかよし会
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青空自主保育 やんちゃお
http://homepage3.nifty.com/kmspot/kids-support/1fukasawa/fu30.html